2nd STAGE - 8/15 Fri.
湯田中温泉-車坂峠 114.1km
朝、目覚めると昨日にも増して激しい雨音が外から聞こえてくる。気温も低く、まるで晩秋のような肌寒さだ。選手達もそれぞれに重ね着をし、下りで胸にはさむ新聞紙やウィンドブレーカーを用意するなど準備に余念が無い。中にはゴミ袋に穴を開けてベストのように仕立て上げ、周囲から「燃えるゴミ男!」と遊ばれていた選手(阪大T選手)もいる。
大会3日目第2ステージ。この日は信州中野の宿を発ち、自転車をクルマに積んで一路山之内町の「みちのえき山之内」へ。ここから眼前にそびえる渋峠に向かってスタートを切り、草津温泉をかすめ、キャベツ畑が広がる嬬恋村を通り抜け、地蔵峠を経てからラストの車坂峠を目指す114.1km。ハイライトは何と言ってもカテゴリー超級というすさまじい標高差を誇る渋峠だ。また、最後に選手を待ち受ける車坂峠。「日本のラルプデュエズ」と言われるこのコースで、どのような攻防が繰り広げられるだろうか。
午前6時半、スタート地点に降り注いでいた雨が一瞬、やんだ。憂鬱な表情だった選手、スタッフにも笑顔が戻り、無事にサインシートへの出走サインやサポートカーの準備を終え、定刻の7時にスタート。この日はマシントラブルで出走を断念した南谷(大工大)、体調不良で大事を取った渋谷(ミノムシ市川)らがDNSとなり38名の出走となった。
標高2150m、日本の国道最高点のある渋峠までの道のりは長い。25kmもの距離を延々と登り続けるとてつもないコースの始まりだ。序盤、スタート直後から今日も山本(京大競技部)がアタック!それに便乗して渡邊(ナカガワAS・K'デザイン)が山本と一緒にランデブーを開始。山本はその後、後退してしまうが、渡邊が単独走行で峠を目指し始めた。様子を伺っていたリーダージャージの白石(シマノドリンキング)だが、目下総合2位の渡邊を逃すことはあまりに危険だ。15秒ほどタイム差が開いた頃には白石、船山(昭和大自転車競技同好会)、高橋(京大自転車競技部)、細川(京大自転車競技部)らが追い始めた。その後、さらに高坂(パオパオ・ビール)、関根(TEAM GIROキャノンデール)、斎藤(KUCC)が追走集団に加わった。
「みんなローテーションしないから、追う気が無いのかな、と思って自分ひとりで出たんですヨ」。渡邊と追走集団の差が40秒を超えようかという時、白石が単独で渡邊をとらえるためにダッシュ。ひたひたとしのびよる白石の影。ほどなく渡邊の背後に白石が静かに付いたのが7km地点。ここから二人による長い旅路が始まった。後方では、連日の速い展開に、疲れのたまった選手は早くも遅れ始めている。
【渋峠中盤 10.5km地点】渡邊、白石-----高橋、関根、高坂、斎藤、奈良、船山(1m30s)---細川---川嵜、柳井、井上(泰)、江國(2m10s)
10kmを過ぎて、追走集団から細川、高橋が順に遅れ始めた。一方で斎藤がスピードを速め集団がバラけ始める。そうこうする間にも白石と渡邊はどんどんアドバンテージを増やし、20km地点では2分10秒の差となった。
氷雨が降る渋峠は、気温7~8度ほどのすさまじい寒さ。凍えるスタッフの前に最初に飛び込んで来たのは白石とのスプリントに競り勝ち「よしっ!」と力強く叫ぶ渡邊だった。そして3分後に船山、続いて奈良、斎藤、関根と続く。高坂は峠を前に失速し始め、単独走行を強いられてしまう。カテゴリー超級の渋峠では、8位までの通過者にポイントが付く。最後の1ポイントを手に入れるべく必死で駆け込んで来たのは川嵜(TEAM GIRO)。「取った!?山岳ポイントゲットや!」と初めてのポイント取得に大声で喜びを表現しながら下り始めた。僅差で遅れて通過した柳井は「ボク何位ですか?9位?はあ~」とうなだれる対照的な様子だった。
【渋峠 C超級】渡邊、白石------船山-奈良-斎藤-関根--高坂---川嵜、柳井、井上(泰)、高橋、細川、江國、紫芝、石川
渋峠からの下りは硫黄の匂いに包まれた草津温泉をかすめる独特の光景だ。ここから約60km地点まではひたすら下りが続き、途中、小さな登りを幾つか経て61km地点のチェックポイントを目指す。乗用車や観光バスの横をすり抜けていく選手達。冷たい小雨の続く下りはあまりにも寒く、多くの選手の胸にはたたんだ新聞紙がはさまれた。体中に鳥肌を立たせた奈良(チーム物見山)は、「あまりにガクガクするのでパンクかと思って自転車から降りても何も異常なく、ただ寒いだけだった」という程、過酷だった。そんな寒さに負けてしまった上位選手が2名。京大競技部の高橋と細川は「寒すぎて・・・」という言葉と共に収容車の人となってしまった。また、前日、膝を傷めた栫井(阪大OB)や田中(筑波)、殿岡(チーム物見山)も続行を断念した。
滑る路面にヒヤヒヤしながら何とかチェックポイントにたどり着いた選手たち。時刻は既に9時半近くになっている。渡邊、白石はあいかわらず2名のままで、後方とのタイム差に余裕を持ったのか、チェックポイントではゆっくりとトイレに立つほどのゆとりだった。その5分後に駆け込んで来た斎藤、関根、奈良、船山はあわただしくスタート。微妙な遅れで孤独な走りになってしまった高坂はゆっくりと補給を手にし、また独りで走り始めた。
かつてアジア大会がおこなわれた群馬県嬬恋村を抜け、2つ目の峠、地蔵峠に差し掛かった。登り口の時点で渡邊、白石と後方グループとの差は既に6分25秒も開いている。さきほど単独で7位走行を続けていた高坂が徐々に後退し、柳井、江國(TEAM GIRO)に抜かれてしまう。高坂の背後には前日、序盤から飛ばし過ぎたことを反省した渥美(SPADE・ACE)が徐々に後半から力を発揮し、力強い走行を繰り広げている。その後ろには紫芝(Verdad)、柴田(HOT STAFF)が続く。そして、地蔵峠は「峠争いで消耗したくない」という白石を渡邊がかわしてトップ通過。
【地蔵峠 C3】渡邊、白石---奈良、船山、関根、斎藤----柳井、江國--高坂--渥美--紫芝--柴田--石川
再び群馬県から長野県へと県境を越えたキャラバン達。目指すは「日本のラルプ・デュエズ」車坂峠である。風光明媚なチェリーパークラインも冷たい霧雨が降り、寒々とした光景。トップをひた走る渡邊と白石は、過酷な状況ながら終始なごやかに喋りながら走行を続けている。「昨日は独り逃げで寂しくて仕方がなかった。今日は2名で良かったっすよ」とは白石の談。しかし、最後の峠に入り序盤の急勾配を抜け、高山植物が彩りよく咲き始めたラスト数キロ辺りから徐々に緊張感が漂い始めた。
ラスト2km、「どうせならアタックをかけて振り切りたかった」渡邊が渾身の力でスパートをかける。前へ出たい渡邊、しかし白石のパワーは渡邊を上回り、僅かのリードを許しただけで逆に渡邊を引き離し、最後はそのまま単独で二日目の優勝をもぎ取った。
3位集団を形成する奈良、船山、関根、斎藤からは、まず関根が車坂中腹で失速し始めふるいにかけられた。「少しでも前と時間を縮めたい!」と斎藤がラストスパートをかけるも、フィニッシュ目前でパワーダウンし、追走の船山に背中をとらえられてしまう。船山はツール・ド・信州初のお立ち台、3位入賞となった。
冷たい雨が降り続いていた苦しい戦いも、トップのフィニッシュ後から雨が上がり始め、爽やかな陽気が広がった。びしょぬれになり、疲労困憊になった選手達だが、久しぶりの晴れ間にあちこちから笑い声が上がった。第2ステージまでサポートスタッフとして活躍してくれたサイクルハウス・イシダの石田店長もこの日をラストに信州を後にした(石田店長、ありがとうございました)。
明日は晴れますように!そんな期待感が選手、スタッフ全てに広がっている大会キャラバン。第3ステージは美ヶ原、ビーナスラインから麦草峠へ至る94km。いよいよ大会は終盤戦に突入する。