3rd STAGE - 8/14 Sat.
荘川村-ひるがの高原-大洞峠-小川峠-馬背峠-位山峠-船山 133.4km
酷暑、悪路、激坂・・・キャラバンは最大の難関へ! 小嶋強し、船山を制しリーダージャージを守り抜く!
情緒あふれる町並みをみおろす宿舎、ひだ高山天照寺ユースホステルでの朝を迎えたキャラバン。川べりでは観光客に人気の朝市が店開きを始めている。
今年のツール・ド・信州は、第3、第4ステージの起点を高山に設定したため、13日、14日と続けて同じユースを利用する。そのため、14日の朝は荷物を宿に置くことができるため、選手にとっては少しラクな状況である。わずらわしい荷物のパッキングは必要なく、自転車とヘルメット、そして補給を携えて銘々に移動の車輌に乗り込んだ。
午前6時に宿を出発したキャラバンは、南西へと進路をとる。大会3日目第3ステージのスタート地点は、高山から約30km離れた荘川村である。のどかな山あいの国道158号を走り、ひだ荘川温泉にほど近い道の駅駐車場に選手、スタッフを乗せたチームカー、オフィシャルカーが続々と到着した。 「いけない!ヘルメットを忘れてしまった!」
大会にはつきもののハプニングだが、なんと個人総合3位に位置している関根がユースホステルにヘルメットを置いてきたという。既に時刻は7時。取りに戻っても7時40分のスタートには間に合わない。戦々恐々の雰囲気となるTEAM GIRO、どうする!?
幸い、他チームが予備として車輌に置いていたヘルメットを貸与してもらうことができ、一同はほっと安心。サインシートは選手らのサインで埋まり、今日も51名全員が出走となった。
第3ステージは前日までのダイナミックなレイアウトとは一転し、狭く小刻みなアップダウンが続くテクニカルなコースである。スタート後、国道を経てやまびこロードを南下、ゆるやかな登り基調の道をひるがの高原まで走り続け、ひるがの高原を下って30数km地点でひとつめの山岳ポイントへの登りに入る。その後は大洞峠(カテゴリー2級・標高1137m)、小川峠(カテゴリー3級・標高919m)、馬瀬峠(カテゴリー4級・標高802m)、位山峠(カテゴリー3級・標高1090m)を経て、最後は信州名物の無名ながら泣く子も黙る船山(カテゴリー1級・1471m)のフィニッシュを目指す133.4km。今大会最長距離である。
今回、このコースでは前半のひるがの高原付近で一般車輌が多く、スタート直後の51名の大集団がひとまとまりで走ることは困難であるとオーガナイザーが判断。過去6回の実績を持つツール・ド・信州史上初めて、選手団を2つに分け、2分の時差スタートにて出走する変則的措置を実施。個人総合成績27位以降51位までが7時40分にスタート、残りの個人総合成績1位から26位までが42分にスタートすることになった。ちなみに時間差分はフィニッシュタイムで調整し、山岳順位は着順そのままを採用される。
涼しい朝の風が吹き抜ける飛騨路は、今日も快晴。7時40分、第一陣の前半スタート部隊が勢いよく走り出した。今回の変則スタートにあたり、前半に出走した選手のなかで、12.1km地点にある分岐図で2つめの交差点をトップ通過した選手には、特別賞として「かこい賞」2千円が贈られることになった。ちなみにかこい賞は、昨年の参加選手である栫井さんによる提供賞金で、毎日ひとつめの峠トップ通過選手に贈られているが、この日は合計ふたつのかこい賞が贈られることになった。
そして2分後には総合1位~26位の選手がスタート。この日はさらに最後の山が船山という名であることにちなんで、昨年の参加選手である船山さん提供によるビッグ賞品が贈られることを選手に告知した。ちなみに毎日の賞品としては、この他にもBR-1とMTBエリートを除く選手のなかで各ステージトップに輝いた選手に対し、これまた信州参加OBの山岸さんより自転車アクセサリー類が贈られている。 最初にスタートした後半順位選手ら。いきなり馬に人参ぶら下げて・・・のように賞金発表されたものだから、スタート直後からペースはぐいぐいアップする。血の気の多い学生選手や若手がグイグイと前に出て、「今こそは自分が主役」とばかり。岡本(シマノドリンキング)をはじめ、山本、植村ら京大自転車競技部の面々、OBである井上(スバルスバラースバレスト)、そして田力ら大阪大学自転車競技部も元気に前に飛び出している。
しかし早めのスパートがあだになったか、失速した京大生らをかわして賞金設定の分岐点でトップ通過は、地元・信州在住の初参加選手、岩瀬(teamゾウゾウ鼻)だった。
その後も前半スタート選手から植村(京大自転車競技部)、その後ろに松井(KUCC)が集団から飛び出して独走を展開。しかし15km地点、ひるがの高原でのアップダウンで後半スタートの選手らが合流し、集団は一体化。
その後も一色(KUCC)や松井が飛び出すも、ほどなく吸収され、いよいよ個人総合上位につける主力選手が集団から動き出した。やはりリーダージャージを着る小嶋(チームミヤタ)と白石(シマノドリンキング)がぴったりと互いをマークしつつ集団の前につけている。既にこの頃にはひとつになった大集団もばらけ始め、メイン集団は27名ほどに減ってしまった。第2ステージで3位となった木下(京大自転車競技部)も、前日の疲れから回復できず「心拍が上がらない」と辛い表情で、ペダルが重そうだ。
25km地点、さっそく白石がアタック開始。もちろんかこい賞に執念を燃やす小嶋がチェックを入れる。あっというまに2名は後方選手との差を30秒開け、いよいよ戦闘開始という感じだ。メイン集団前方に位置しているのは、奈良、高坂、柴田らHOT STAFF勢、関根(TEAM GIRO Cannondale)、渥美(SPADE ACE)、砂原(ツーバイツーレーシング)、岩橋(ユキリン)、春原(シマノドリンキング)など。
前に出た小嶋と白石に、集団から抜け出た笹井(bicinoko.com)と高橋(京大自転車競技部)が合流。ひるがの高原を一気に下り、37km地点からひとつめの峠、大洞峠への登りに突入した頃には、トップグループは小嶋、白石、関根、高橋、砂原の5名となる。関根は小嶋に話しかけるなどダンシングも軽快だ。白石、高橋は淡々と、砂原はひとり苦しそうな表情、やはり遅れ始めてしまった。 緩やかな勾配が続くなか、小嶋による幾つかのアタック弾が放たれるも独走には至らず。そのまま峠まで残り4km地点を通過。
「このまま一緒には登らせない!」そんな叫びが背中から聞こえてきそうだ。とうとうラスト2km辺りで小嶋は高橋、白石、関根を置き去りにしてラストスパート!みなぎる力をペダルに乗せ、大洞峠をトップ通過し笑顔で下りに突き進んでいった。
大洞峠
小嶋---白石(+32s)--関根、高橋--砂原---柴田、奈良、高坂、渥美、岩橋---笹井--高橋(FIETS)---佐藤(BIKE SHOP SPACE)、山崎(坂バカ日誌)
渾身の登りで5位通過した砂原の後、6位グループがまとまって上がってきた。これからの道のりに備え、補給を求めて奈良がスタッフに手を伸ばす。同時にチームメートの柴田、高坂、岩橋、渥美がやってきた。その後に遅れて笹井、持てる力すべてを振り絞ったように激しい息づかいの高橋(FIETS)が、そして腰の痛みを抱えながらも佐藤(BIKE SHOP SPACE)がサポートの声援を受け12位通過。
大洞峠を登りきると、この日最も危ない下りが選手に襲いかかる。苔むした路面、浮かび上がる砂利、ボコボコのアスファルトに細い道・・・。まったく気の抜けない悪路をひた走る選手たちだが、ほっとひと息つく間もなく、コースのほぼ中間地点となる小川峠に突入。
独走する小嶋、それを追うのは白石と関根。続いて4位争いは高橋と砂原。そこへHOT STAFFのレツゴー3匹、奈良、高坂、柴田と岩橋も追い付いてきた。小川峠もそのまま小嶋がトップを通過。峠を下った地点の補給スポット、チェックポイントでは、小嶋はペダルを止めるのも惜しむ勢いであっというまに通過。白石と関根も急いで出発。そして6人ひとまとめで高橋、砂原、奈良、高坂、柴田、岩橋が駆け込んできた。
カテゴリー4級の馬瀬峠は、山岳ポイント設置箇所向こうにトンネルが待ち受けており、言われなければ峠と気付かないようなレイアウト。ここでも一向にたれることのないペースで小嶋が単独通過。1分40秒差で白石と関根が仲良く(?)通過、続いて4位争い。こちらは激しいスプリントで「今日は"おやじ狩り"の日」と豪語していた高橋が奈良を制した。そして一緒に登ってきた高坂、砂原が続き、苦しい表情で岩橋、チームメートに遅れをとった柴田が続く。
厳しい暑さのため、身体に水をぶっかける選手が続出。また、積もり積もった疲労のせいか、やけにコーラやスポーツドリンクの減りが早い。スタッフも大忙しだ。既に100kmの道のりを通過したキャラバンは、再び高山市に近付く位山峠に差し掛かった。
「白石、関根とのタイム差2分!」サポートカーから告知を受けた小嶋の表情は、徐々に険しくなるもぺダリングの衰えは感じられない。イーブンペースで補給を受けて鬱蒼とした緑に包まれた位山を力強く登っていく。峠のピークで、白石、関根とのタイム差は3分になり、小嶋は最後の難関、船山へと疾走していく。
位山峠
小嶋---白石(+3m)、関根---奈良、高坂、高橋、高梨---岩橋--柴田--渥美
高山市の南、知る人ぞ知る小さなスキーリゾート、舟山高原にある「船山」(なぜか高原は「舟」で山は「船」)。頂上には電力会社の施設のみがあり、人っ子ひとりそこを通らぬ存在感のない山だが、ツール・ド・信州関係者の間では超有名な「エグい」山だ。
すでに過去の大会で何度も紹介しているが、スキー場を横目に抜けたラスト3kmの道のりはガレ場を含む簡易舗装。しかも数十メートルおきに道を横切っている溝を分厚い鉄板が這い、危うくハンドルを取られて転倒しかねない悪路中の悪路である。さらにその傾斜の激しさたるや「押した方が早い」と過去参加の選手がスニーカーに履き替えてシクロクロスの風情で走った逸話まで生んでいる。 船山に差し掛かった小嶋。この峠は既に2度目という小嶋は、前回、筑波大学の小山選手に最後の最後で逆転負けした苦い経験を持っている。「今日はひとりで優勝をもぎ取る!」、そんな気迫が感じられる走りでゴールまで突き進む。
一方、ずっと2人のランデブーを続けていた白石と関根だが、スキー場を過ぎてしばらくのところで白石がハンガーノックで失速してしまった。ここで関根による2位への独走が始まった。 4位争いを繰り広げるのは奈良、高坂、高橋、砂原の4名。ここから調子を上げてきている高橋が先行。奈良も続くが高橋には届かず、高坂はイーブンペースで淡々と前進。さらに砂原が続く状態。遂に4位グループもバラバラに分解してしまった。
樹木のざわめきとサポートカーのエンジン音だけがBGMの船山山頂に小嶋がやってきた。激しい息づかいながらも、4年前とは違う力強さがみなぎっている。25Tを付けてきたという小嶋だが、「今回は23Tでもいけましたよ」という。完全復活を見せつけた格好だ。なお、船山賞として小嶋には豪華ビア・サーバーが贈られた。
小嶋から5分13秒遅れて、過去最高位を記録した関根が疲労と喜びに満ちた表情でフィニッシュ。前日まで応援に来ていた彼女への最高の土産話が出来たはずだ。そして3位には、簡易舗装に入ってゴールまでの半ばあたりで白石の背中をとらえた高橋が飛び込んできた。思いがけないハンガーノックで遅れを喫した白石は4位。終始冷静な走りで着実に前に出た高坂が5位。続いて砂原、連日の激しい走りが徐々に足に影響したか、奈良が7位ゴール、3分遅れて柴田、3日目にして調子を上げてきた渥美、そして高梨、笹井、岩橋、木下と続いた。
蓄積する疲労、暑さ、悪路、激坂・・・。過酷な条件で戦った選手たち。残念ながらリタイヤ選手も3名出てしまった。
明日、大会はクライマックスを迎える。ツール・ド・信州2004は8月14日、第4ステージで大会未踏のゴール、御岳を目指す。