4th STAGE - 8/16 Tue.
8/16 Tue.
甲府-鳥坂峠-上九一色-精進湖-富士山スカイライン-御殿場-富士山五合目 108km
キャラバンは最後の舞台、富士山へ! 小嶋(Team-Comrade.com)光るチームプレーでリーダーを守り抜く! 山岳王は白石(シマノドリンキング)の手に。
8月16日、蒸し暑い甲府市での朝を迎えた参加者たち。宿舎のホテルには、ピストの合宿で高校生自転車選手100名が宿泊しており、独特の雰囲気をかもし出している。
宿の定員オーバーとなったために別のホテルに泊まっていたチームも、6時半頃にはスタート会場の駐車場に到着。スタートまであと30分。溜まり切った疲れが表情やしぐさに表れている選手たち。テーピングをしたり、ストレッチで身体をほぐすなど、それぞれ最後のステージの準備に余念がない。
ツール・ド・信州2005最終日。第4ステージは、第1回大会から7年ぶりとなる富士山を目指すコース。甲府市石和温泉からスタートし、芦川村から精進湖畔を駆け抜け静岡県へと入る。朝霧高原から富士宮市方面へと至り、さらに富士山スカイラインを登って再び御殿場市まで下った後、今大会最後の山岳ポイント、富士あざみラインへと突入する。
自衛隊富士演習場が左右に広がる富士あざみラインは、サイクリストが恐れる超激坂でその名を轟かせている難所だ。10%をゆうに超える急勾配が続く厳しい道のりが、長い行程で疲労した選手を苦しめる。第3ステージを終えた時点でリーダーの小嶋(Team-Comrade.com)と白石(シマノドリンキング)との総合時間差は9分32秒。MTBで活躍する白石にとっては、激坂は得意とするところ。展開によっては富士あざみラインで王者の座がくつがえることも考えられる。
5名の欠場によって69名となった選手団は、定刻7時にホテル前をスタート。笛吹川ぞいからぶどう畑と民家が並ぶ八代町を抜けパレード走行を続ける。早くもペダリングが重く憂鬱な表情を見せる選手が何人か見える。5.2km地点、ようやくひとまとまりになったところでオーガナイザーの合図によって再度カウントダウン。いよいよ最後のステージが始まった。
正式スタート直後、山に向かう緩やかな登りでのっけから河野(Team-Comrade.com)がアタック。白石(シマノドリンキング)、山根(TeamYOUCANスペシャライズド)らが反応し、集団は一気にバラけ始めた。さらに8km地点では、前日に続いて山崎(坂バカ日誌)が飛び出し、単独先行。その後ろを山根、河野、稲田(大阪産業大学)、田端(BM SPACE)らが追うが、白石と小嶋の2人は様子をうかがうように後方で淡々と走っている。
10km地点、傾斜が急にきつくなり遅れ選手が続出。後方は早くも耐久ラン状態になっている。先頭は山根、河野、稲田、田端の4名、その後ろ20秒開いて山崎、春原(シマノドリンキング)、そして先頭から1分5秒開いてようやく白石と小嶋、高梨(なるしまフレンド)が続いている。過去の大会では決まって最初の峠で自らアタックを仕掛けていた小嶋だが、今年は違う。チームメイトの河野を一発目に送り出し、自分は消耗することなく白石の背後につけている。
拮抗する4名のトップグループから稲田がカメラに向かってアタック!パンターニを彷彿とさせる小柄な坊主頭で山道を弾けるように登っていく。コースアウトで行方不明になるなど不運もあったが、たったひとり大産大から参戦してきた稲田の若さ溢れるアグレッシブな走りは目を見張らんばかり。今後の成長に期待したい新星だ。
ひとつ目の山岳ポイント、鳥坂峠まであと1km辺りで単独先行する稲田を猛然と追い上げてきた河野がとらえた。「このまま逃げた方がいいですか?」とTeam-Comrade.comのサポートカーに乗る内山にたずね、稲田と共に一気に峠まで登り切る。山岳ポイントが見えたラスト50mでは、ゴールスプリントのようなバトルを繰り広げ、河野がトップ通過。45秒遅れで田端と山根、トップの河野と稲田から1分30秒遅れで白石、小嶋。その後ろに伊藤誠(BM SPACE)、KUCCの杉山と稲益、高梨、さらにトップから2分30秒開いて高坂、春原、佐藤(Verdad)、山崎と続く。
峠のトンネルを抜け、芦川村の集落への下りを駆け下りていく選手たち。下り切った後も先頭の河野、稲田はペアのまま次なる山岳ポイントである精進湖トンネルを目指す。後方では山根と田端に白石と小嶋が追い付き、4名となるが田端の表情はかなり辛そうだ。湖畔を抜け、カテゴリー4級の精進湖トンネルの山岳ポイントでは稲田、河野の順で通過。その後ろでは、小嶋を引き離すべく白石がペースを上げて3位通過。しかしその後、下りで再び白石は小嶋、山根、田端と合流。またその後方では、HOT STAFFの高坂、奈良、春原(シマノドリンキング)、高梨、KUCCの杉山、稲益、Verdadの佐藤、都築、安堵(キャノンBBTプリンス)、伊藤らがひとまとまりの集団になった。
富士スカイラインへ向かう見通しの良い朝霧高原を走る河野と稲田。オフィシャルサポートカーも追い付けないほどのスピードでグイグイと後方との差を開けていく。目視でも十分に分かるほど、後方の4名集団よりもペースが速い。50kmを過ぎ、牧場や土産物屋が並ぶ見通しのよい直線路で、トップ2名と白石、小嶋のグループとの差は3分30秒。10名による第3グループとの差は4分に開き、その後、第2グループは第3グループに吸収され、14名による追走グループが出来上がった。
これまでのステージには無かった平坦路が長く続く区間、集団からは一瞬、小嶋が前に出るも白石がしっかりとチェック。春原(シマノドリンキング)も果敢に先行しようとするなどペースはどんどん上がる。60km地点辺りで雨が降ったりやんだりの不安定な天候となる。65kmを過ぎて、再び峠道に入り厳しい登りの戦いが始まった。富士山スカイラインの山岳ポイントまであと10km。
このアップダウン区間の後続集団の中で、自転車同士の接触によって藤原(大阪府立大サイクリング部)が転倒、側溝へと身体をぶつけてしまい救急車に運ばれるアクシデントが発生。大事故には至らなかったものの、大会2度目の事故が発生してしまった。また、事故でストップした紫芝(Verdad)がリタイヤとなった。
雨に濡れた緑でむせかえるなか、序盤のカメラアタックから河野とのバトルで消耗した稲田のペースが徐々に鈍くなり、河野から離れていった。しかし小嶋、白石、田端の3人に捕まる直前、最後の力を一滴残らずふりしぼるかのようなアタックを仕掛け、オフィシャルカーに乗ったスタッフも興奮!しかし、小嶋らもペースを緩めず富士山スカイライン頂上手前で3人にかわされてしまう。一方の河野は一人先頭を走り、小嶋を勝たせるための使命を全うするかのように鋭い視線で黙々と前に進む。河野に続いて2位で富士山スカイラインを通過し山岳ポイント12ptを獲得した白石は、ここで山岳王の座を確定させた。
75.7km・富士山スカイライン
河野---白石(2m50s+TOP)--田端--小嶋-稲田--杉山----佐藤(5m40s+TOP)--安堵、奈良、高梨---都築--伊藤誠、稲益---高坂(10m20s+TOP)--春原--矢澤(BM SPACE)--遠藤績(BM SPACE)、木下(Team-Comrade.com)、山根---山崎---
スタートから3時間が経過。雨に濡れた寒さと滑る路面で落車をおそれながらもひたすら下っていく選手らの表情は限界ギリギリを感じさせる厳しさだ。下り終えれば、残るは今大会のクライマックスであり最大のハイライトとなる富士山新5合目を目指す富士あざみラインが彼らを待ち構えている。
スカイラインの下り、単独で逃げ続ける河野を追う白石。二日前に落車した白石が淡々と下る一方で、リーダージャージに身を包んだ小嶋がアグレッシブな走りで白石にせまる。そして遂に白石の背中をとらえ、そのまま一気に抜き去ってどんどん下っていく。小嶋はそのまま富士吉田への有料道路が始まる須走インターチェンジの分岐を通過。とうとうチームメイトの河野に追い付き、Team-Comrade.comの2人が一体となって霊峰富士へと駆け登っていく。
射撃場からの銃声が響き渡るものものしい雰囲気の富士あざみラインの入り口、一直線に続く見通しの良い登りで小嶋と河野、そして白石は互いに目視できる状態だった。その直線コースが終わり、つづら折れに入った直後、白石の視界から外れた瞬間を狙ったのだろう、小嶋が「あとはまかしとけ!」と言わんばかりに河野を置いてスパートをかけた。エースのリーダージャージを守るために捨て身の独走を繰り広げた河野は、ここで遂に役目を果たし終えて燃え尽きた。小嶋を追う白石に抜き去られ、急勾配で一時は自転車から降りてしまうほど疲弊した様子でゴールを目指す。
河野と分かれ、急勾配のつづら折れが続く最後の山を猛進していく小嶋。白石との差は徐々に開き、ふもとでの3分差からラスト2kmでは5分にまで開き、小嶋の脳裏では次第に勝利が予感から実感へと変化していったことだろう。「チームプレーのお陰で、序盤、自分は足をためることができた。最後は一気に登り切って勝つだけ」(小嶋)。今までにない仲間のサポートを得た最終ステージ、道が徐々に明るく開け、5合目の山小屋が見えてきた。小さくガッツポーズをしながら、フィニッシュラインへと到達した真っ白のリーダージャージ。小嶋は1998年、大学1回生での第1回大会参加から、合計5度目の優勝という快挙を成し遂げたことになる。
小嶋のフィニッシュから6分32秒を経て白石が到着。今回、久々に総合優勝選手と山岳ポイント1位選手が異なるパターンとなり、展開の複雑さ、面白さが浮き彫りとなった。そして白石から1分51秒後、小嶋を勝利に導いた河野が3位を守り抜いてフィニッシュ。続いて、全日程を宿舎に泊まらず野宿で通した杉山がタフな走りで4位、連日、白石と小嶋にくらい付いた田端が5位に入り総合3位をキープ。続いて杉山と同じく京大サイクリング部の底力を見せた稲益が6位に、そして7位は高梨、都築との最後のバトルに勝った奈良が入って総合5位に輝いた。8位には連日のステージで光る走りを見せた高梨となり総合6位、9位は都築で総合4位に輝いた。
優勝した小嶋がフィニッシュしたのが午前11時44分11秒。足切りはトップのフィニッシュから2時間半。その2分前になってフィニッシュライン手前の直線に田中(大阪府大自転車部OG)が現れた!先にゴールしたチームメイトの長島ら参加者が一丸となって田中に声援を送る。急坂でなかなか進まないながらも必死でペダリングする田中。なんと足切りまで35秒のところで見事完走を果たし、路面に倒れこんだ。湧き上がる歓声が富士の5合目に響き渡った。
5日間に渡る長い旅を終えた総勢110名のキャラバン。「来年はさらなる大会のレベルアップを目指す」というオーガナイザーによる熱のこもった言葉が最後の挨拶となり、「また来年」の掛け声で、選手、サポートらはそれぞれの帰路に着いた。このレポートには綴り切れない数々のドラマを生み出し、ツール・ド・信州2005はここに閉幕した。
(レポート/近藤令子)