HISOTRY 2001

ファンライド10月号掲載記事

ツール・ド・信州 2001
山岳ステージレースの醍醐味ここにあり! 
真夏の信州を熱く駆け抜けた5日間

 

第4回大会を迎えたツール・ド・信州2001。連日、繰り広げられる過酷な山岳コースでの攻防が、一部のレースフリークから熱烈な支持を得ているレアな大会だ。峠に挑むクライマーと本物のステージレースを目指すボランティア達の熱き5日間をレポートする。

大会が産声を上げたのは4年前。「アルプスやピレネー並の山々を擁する信州で、日本一の山岳ステージレースを創りたい!」。代表の近藤淳也を中心とする自転車好きの若者達が実行委員会を結成し、以来、手弁当での運営が続いている。
 素人集団による運営とはいえ、大会を支持する一般のファンは多い。期間中、インターネットによる速報ではビデオとレポートが即日掲載され、毎日、多い日で1000アクセスにせまる勢い。レースファンによる応援メッセージも盛んにあり、今年は毎日新聞やNBS長野放送の取材が大会に華を添えた。
 ビッグスポンサーも付かずスター選手も走らないツール・ド・信州が、なぜ一部のファンから注目を集めるのか。それは、日本一苛酷ともいえる山岳重視のコース設定や本格的な運営体制にあるようだ。ツール・ド・フランスと同基準で山岳カテゴリーを設定したコースは、1日の距離110~120km、総標高差にして3000~4000mを登る厳しさ。走行中は、サポートカーからの補給やタイム差告知がなされ、その日の夜にはコミュニケが発行される。そんなステージレースのエッセンスが凝縮された内容が、一部のレースファンを惹き付けるのだろう。

 8月14日、灼熱の陽光ふり注ぐ長野県下伊那郡に、選手25名とスタッフ14名、総勢39名が集まった。今年は京都大学8名をはじめ筑波大学3名、大阪大学2名、埼玉大学、東京大学、徳島大学、京大BOMB各1名の学生選手17名、社会人からは坂バカ日誌2名、ペアラレーシング、クラブアングル、フーバーネットワーク、Vitesse、セレーノA&Tヤマダレーシング、Verdad各1名という史上最多25名の出場だ。
 プロローグは、県道1号線を川ぞいに北上する2.81km。1番手にスタートした紫芝(Verdad)のタイム5分05秒を目標に各選手が疾走。渡辺(徳島大)が初の4分台をマーク、後半の京大勢スタートで一気にタイムは4分30秒台になり、矢澤、松井が上位に立った。
 ラスト、目下2連覇中の小嶋(京大)と対抗馬として注目される実業団選手、山根(セレーノA&Tヤマダレーシング)との対決は、なんと4分34秒の同タイムで終了。翌日からの混戦を予想させる結果となった。
 第1ステージは序盤、いきなり日本屈指の難所であるしらびそ峠で町田(埼玉大)が激しいアタックをかけ、これに「誰よりも前を走ることが信条」の小嶋が町田をとらえ独走を開始。一方、背後の山根は「小嶋を泳がそう」と判断。その後、小嶋は一歩出遅れた山根の単独追走を寄せ付けず、100km独走を成功させステージをものにした。
 前日、2位に甘んじた山根は「作戦を変更しなければ小嶋に勝てない」と悟り、第2ステージでは各選手のアタックに反応する小嶋の動きを矢澤、藤田(クラブアングル)、寺本(ペアラレーシング)らと共に徹底的にマーク。しかし、アタックの連発に消耗しながらも、野麦峠からは小嶋がまたも独走。乗鞍も難なく登り切り、王者の地位を確たるものにした。
 第3ステージ、松本をスタート直後、お決まりの唐木アタックに小嶋、笹井(フーバーネットワーク)が反応。山根、渡邉(京大)、藤田、吉田(阪大)紫芝のグループが追う形成となる。
 やはり今日も小嶋の独走ゴールか。そんな予想をくつがえし、美ヶ原で「タイム差2分半」の告知を受けた山根が「今日は勝つ!」そんな叫びと共に単独スパート。ビーナスラインで小嶋をとらえ、二人の攻防が始まった。最後の麦草峠に入り、序盤の急勾配で山根が一気に小嶋を置き去り、勝利への疾走開始!しかし峠の後半、勾配が徐々に緩むにつれ小嶋が山根にグイグイとせまり、女神は小嶋に微笑む結末となった。
 最終日・第4ステージ、118kmの行程のうち、ラスト30kmはゴールの大弛峠を目指す超ロングヒルクライム、おまけに終盤、ダート区間が3kmも選手に襲い掛かるという難コースである。スタート直後、連日のようにアタックを繰り返した唐木に山岸も呼応。さらに矢澤のアタックなど賑わった後、やはり小嶋がひとつめの馬越峠からトップ通過。後方では渡邉、笹井が必死に追う。山根は4位グループにとどまっている。
 その後、4つの山岳ポイントを全て小嶋が単独首位通過し、大弛へのラストランが始まった。小嶋は狂人的な強さで悪路にも関わらずノーパンクで全行程をクリア。一方、小嶋への逆襲を最後まで諦めず、大弛で追走劇を開始した山根だったが、ダート手前でパンクの不運。最終的に寺本と紫芝に抜かれステージ4位となった。
 全ての峠を征した小嶋の3連覇で幕を閉じたツール・ド・信州。トップによるバトルはもちろん、最も長い時間走りつづけた25位の寺島(坂バカ日誌)まで、それぞれの選手がそれぞれの戦いのスタイルで信州を走り切った。帰路につく車中では「来年も必ず出場する」「かけがえのない経験」と興奮覚めやらぬ様子で語る選手の笑顔が印象的だった。また、大会を支えたボランティアの献身的な働きに選手から賛辞の声が寄せられた。
 様々なエピソードを生んだツール・ド・信州2001が終了。来年は、峠を舞台にどんな攻防が繰り広げられるだろうか。
 

(コース紹介)
総走行距離458km、17(山岳賞対象)の峠を越える「日本一過酷な」山岳コース

(全体の説明)
乗鞍、美ヶ原といったサイクリストのメッカを含む、17の山岳ポイントを擁する今大会のコース。第1ステージには、「鬼のような」激坂、下栗集落を含むしらびそ峠が大会初登場。第4ステージは、国内最大の標高差を誇る大弛峠を目指す。しかも3kmに渡るダート区間を含むクライマックスは、選手にとって「修羅場」以外の何物でもないだろう。

(各ステージのコース説明)
1st STAGE
南信濃村から二つの峠を越え伊那市へ北上、権兵衛峠が待ち受ける120.5km。スタートから29kmの間に標高差1500mを登るしらびそ峠が勝負ポイントだ。

2nd STAGE
地蔵峠、長峰峠、野麦峠、風光明媚な白樺峠、そしてツール・ド・信州の定番である乗鞍畳平がゴール。たたみ掛ける峠とアップダウンの激しさに注目。

3rd STAGE
スタートからいきなりカテゴリー超級の武石峠が待ち受ける。美ヶ原からビーナスラインをひたすらアップダウンし麦草を西から延々と登る109km。

4th STAGE
馬越峠、信州峠からクリスタルラインを抜け山梨県牧丘まで一気に下り、日本最大の標高差を誇る大弛峠がゴール。3kmものダート区間が要注意箇所。

(文:近藤令子、写真:近藤淳也)