ライバルへの恋心
2000ツール・ド・北海道。
第1ステージは終始雨のレースで多くの選手が同タイムでのゴールとなった。
続く第2ステージ、176kmの長いステージでは序盤からいくつもの動きがあるが、
どれも決定的には決まらない。
最後の峠を越えたゴールまでの平地では、再び先頭は集団となっていた。
そして、誰もがこのまま集団スプリントだと思っていただろう。
残り15km、小さな坂の手前で前に飛び出したブリジストンの橋川に、
一人反応したのはカナダのエリックだった。
渾身の力でペダルを踏み、後続との差を広げる二人の頭の中には、
ただ、ゴールへの思いがあるだけに見えた。
この日、集団と34秒の差をつけゴールした2人は、
結局2000年のツール・ド・北海道のレースリーダーを争う2人となる。
たったの15km、しかし、誰よりも強烈に勝利を願いながら2人が走った15kmを、
残りの5ステージで誰も埋めることはできなかった。
レース後、総合優勝したエリックは、「橋川の走りを尊敬しているよ」と言った。
橋川もまた、「エリックの走りは気持ちが良い」と称える。
激しく争い続けた二人のライバル同士の間には、
他の誰も近付けなかった闘いをした相手への、
恋人へのそれにも似た想いがあるように思えた。